要求のライフサイクル・マネジメント
要求とデザインの情報を発生から廃棄までマネジメントし維持していくためのタスクについて記述されています。要求のライフサイクルをマネジメントする目的は、ビジネス要求、ステークホルダー要求、ソリューション要求、およびデザインを、互いに整合させ、ソリューションがその要求とデザインを実現していることを確実にすることとあります。ソリューションが実装されたからといって、要求の管理がそこで終わるわけではなくソリューションが存続している間ずっと要求は価値を提供し続けるとあります。
①要求をトレースする
要求をトレースするタスクの目的は異なるレベルにある要求とデザインが互いに整合していることを確認し、関連している要求のあるレベルで生じる変更が他のレベルの要求やデザインに与える影響をマネジメントすることであるとあります。要求のトレーサビリティとは、各要求の系統を明らかにして文書化することで次のことが可能になるとあります。
- 影響分析がより速くより容易になる
- 要求間の不整合やギャップを発見する精度が増す
- チェンジのスコープと複雑さについて、より深い知見が得られる
- どの要求にすでに取り組み、どの要求に取り組んでないかを評価する信頼性が増す
要求のトレースに要する工数は、要求の個数が増えるにつれ、あるいは公式度合いが高くなるにつれ急激に増えるとあります。大量の要求をトレースする必要がある場合に、要求管理ツールが役立つとあります。
②要求を維持する
継続しているニーズを表現する要求に対しては、時間が経過しても常に妥当であるように維持していかなければならないとあります。要求の維持と再利用には、表現が一貫していること、標準プロセスで品質確保されていること、アクセスしやすく、理解しやすいこととあります。ステークホルダーは要求の再利用を提案された場合は、受け入れて変更を進める前にその要求の妥当性を確認する必要があるとされています。
③要求に優先順位を付ける
ステークホルダーに対する相対的な重要度に応じて要求にランクを付ける作業です。優先順位付けは継続的なプロセスであり、当初与件であった文脈が変わった時に優先順位も変わるものだよとあります。難しいのはステークホルダーによって要求の便益が違うので全社視点で考えられずに自分の関係するところばかり優先したい人がいる場合です。そんな時はステークホルダー間で調整が必要となりビジネスアナリストは腕の見せ所となる訳です。優先順位付けの基礎として以下の要因が紹介されています。
- 便益:ステークホルダーにもたらされる恩恵
- ペナルティ:定められた要求を実装しなかつた場合の結果
- コスト:要求を実装するのに必要な工数とリソース
- リスク:要求が潜在価値を提供できない可能性
- 依存性:ある要求が完了しない限り、別の要求も完了しない場合の要求間の関係
- 時間依存性:その日を過ぎると要求の実装の価値のかなりの部分が失われる
- 安定性:要求に変更が生じる可能性
- 規制やポリシーの遵守:組織に課される規制やポリシー
④要求変更を評価する
要求やデザインに対して提案された変更の意味することを評価するタスクとなります。変更を評価するときには、戦略全体との整合性、ビジネスグループまたはステークホルダーグループに提供される価値に影響しないか、価値を提供するまでに要する時間や価値を提供するために必要なリソースに影響しないか、活動全体に関してリスクや機会、制約に変更が生じないかの考慮が必要とされています。変更分析の結果、明らかになったすべての影響と解決方法は文書化し、すべてのステークホルダーに伝達するとあります。
予測型のアプローチは、提案された変更に対して公式度の高い評価が求められる。一方で適応型のアプローチは、提案された変更の評価は高い公式度は求められない。
影響分析は以下を考慮するとあります。
- 便益
- コスト
- 影響
- スケジュール
- 緊急性
⑤要求を承認する
要求とデザインの承認は、公式、非公式の場合があります。予測型アプローチつまり、ウォーターフォールでは承認は公式にフェーズの最後や定期的な変更管理会議で行います。適応型アプローチつまりアジャイルの場合は、要求を満たすソリューションの構築と実装を開始できるようになった時に非公式に行います。ビジネスアナリストは、承認の権限を持つステークホルダーが要求を確実に理解して受け取ってくれるようにする責任があります。ただ、チェンジを成功させるために完全な合意が必須ではなく、合意されていない部分はリスクを特定して適切にマネジメントしようねとなっています。